【一般質問解説①】 保育施設の「量的拡大」による「保育の質」低下を防げ!

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 獣医学部の新設を巡り様々な報道がなされています。
 国家戦略特区で獣医学部を西日本に新設し業界内の競争を活性化させることで、新たなニーズを掘り起こしたり、より良いサービスの提供につなげていこうという想いがある一方、ニーズが限られている中で新たに獣医師を輩出しても仕事の取り合いで結局のところ、業界の地位低下につながるという考えを持つ人もいます。何かを進めれば必ずその反面で違う問題が生じるのかもしれません。

 大津市では働くパパ・ママを支援するため、保育施設の量的拡大が近年進められてきています。私のところにも思った保育園に入れず困っている声を聞いてきましたので、保育施設の量的拡大については推進の立場でいます。

 一方で、保育園や保育士からは悲痛とも言える現場の声を聞きます。保育園が増えすぎているにも関わらず、保育士の確保が大変困難になってきており、すでに働いている保育士さんへの負担が高まり、朝から晩まで働き、土曜日も働き、ワークライフバランスが保てず疲弊感が現場に蔓延しているというのです。

 実際、私も地元の2保育施設の理事を務めさせて頂いており、今年1月からは保育士確保に関連して、私自身も保育士さんの引き留めに奔走したこともあり、こうした問題は切実に伝わってきます。本当に保育士さんが労働市場にいず、新規採用が大変困難な状況になっています。
 これは民間園だけではなく実は公立園についても言えることです。今年の新規採用枠を大津市では確保できなかったことや、地域連携担当の保育士を現場保育に回さざるをえない状況に陥っており、まったく現場に余裕がなくなってきていることを聞いています。




 上図は一般質問でも議場で投影したグラフで、ここ数年の保育施設の増加状況と、非常勤のパート保育士さんの比率の上昇を示したものです。

 平成25年頃から常勤保育士の確保が徐々に難しくなってきており、国でこども園制度が本格化した平成27年からは大津市でも一気に保育施設が増えたことから、パート保育士さんの比率が高まってきています。(パート保育士さんが悪いわけではなく、常勤保育士さんの確保が難しくなってきていることを示すグラフです)
 ここには明確な相関関係があり、「保育施設の増加」と「パート保育士比率の上昇」の補正後決定係数は77.8%となっています。つまり、保育施設が増えるとパート保育士が増えるという関係があるということです。

 なお園ごとの非常勤保育士比率の推移も計算をしていますが、個別の園にご迷惑をかけることになるのでここで掲載することは控えますが、平成22年以前にあった「老舗保育園」は平成22年度にパート比率が16.9%であったのが、平成29年度には24.9%になっており、平成27年度以前にはなかった「新設保育園」は平成27年度のパート比率が28%で、平成29年度が29.9%となっているなど、老舗保育園、新設保育園ともパート比率が高まっているものの、特に新設園では10人中3人がパート保育士に頼らざるを得ない状況になっています。

 中にはパート比率が50%を超えている園が2園、45%を超えている園も2園あるなど、保育士さんのやりくりにおいて、本当に切羽詰った状況に追い込まれているところも散見できます。現場では本当に保育士が不足しているのです。

 今回の一般質問では、保育の量的拡大に伴って生じている「保育の質」低下をどのように防ぐのか、早急な対策を求めたものです。

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【質問(Q)】藤井哲也 ※太字
【答弁(A)】福祉子ども部長(市長代理)

(1)
 量的拡大のために不可欠な保育士も不足気味である。なぜ集まりにくくなっていると考えているのか、その要因を伺う。

 保育士が集まりにくくなっている要因についてですが、まず他市を含めて保育所が増えているという状況があげられます。加えて、保育士養成校を卒業した新卒の方については、保育士として勤務せずに勤務条件が良い他の職種に就職される方も多く、また、いわゆる潜在保育士についても、保育職場にフルタイムでの復帰を望む方が少ないという実態があると聞き及んでおります。これらのことから、保育士資格を有する方の間で、勤務条件等の処遇面が保育士の職務内容に見合ったものとなっていないという認識が広まっていることがその大きな要因であると考えております。


(2)
 量的拡大を進める上で、特に考慮すべき事柄として「保育の質」について質問を行いたい。
 平成22年と27年に行われた国勢調査の結果を分析する限りでは、保育サービスの量的拡大(約2千人分)により、子育てママの就業数(約760人)と率(約6%)が向上した政策効果が見られる一方、毎年度本市が行っている「保育所・幼保連携型認定こども園現況調」を分析したところ、年々、保育士に占める非常勤保育士の率が高まってきており、平成22年に22%だった非常勤保育士の比率が、直近の29年では27%まで高まってきており、保育士が確保しづらくなってきていることが見て取れる。
 確かに、私自身が地域の保育環境の安定化のために、保育士確保に奔走したこの数ヶ月の経験から得た実感は、経験やスキル、知識を有した保育士の確保が現時点で非常に困難であり、この状態で保育の量的拡大を行い続けることは、「保育の質」を高い確率で低下させる要因になりうるというものである。
 「保育の質」をめぐっては、OECDが、①保育施設のハード面の整備状況や保育士の資質、保育士と子供の人数比率、保育士の労働環境などによって構成される「構造の質」と、②子ども達の育ちをもたらす安心感や教育的意図を含む保育士と子どもとの関係性などによって構成される「プロセスの質」を挙げ、それらが「成果の質」すなわち「保育の質」を構成するとしています。
これらから言えることは、保育士と子どもの良質な相互作用を生み出すためには、保育に専念できる働きやすい環境や、経験やスキルを持った保育士の確保、また経験はなくとも新人保育士を育成できるミドルリーダーの存在が重要ということである。
 以上の事柄を踏まえ、本市が抱える保育政策の課題を表したイメージ図が投影している資料のものである。



 現在、保育の量的拡大によって、未就学児の入園や女性の就業率がアップする成果が出ている一方、潜在的な待機児童が顕在化し続け、さらなる量的拡大の政策インプットを要するスパイラルが生じている。
 このスパイラルはもう一つ負の側面を持っている。つまり、経験や意欲ある保育士の獲得競争の激化につながっており、これは早晩、「保育の質」に影響を及ぼしてくるものと思われる。
 「保育」は一体誰のためにあるべきなのか?子育てママの就業促進の観点から言えば、保護者のためという側面もあるかもしれないが、まず一番に考えなければならないのは、子どもである。保育サービスの量的拡大はもちろん重要であるが、その前提として「保育の質」を疎かにしてはいけないことは本市も共有している認識であろう。
 以上を踏まえ、本市の「保育の質」に関連して数点質問を行う。

❶保育サービスの量的拡大が招く「保育の質」への影響に関する見解について
 保育サービスの量的拡大による保育士不足が、「保育の質」にどのような影響を与えうると考えるか見解を伺う。


 保育サービスの量的拡大により生じる質的影響についてのうち、保育の量的拡大が招く「保育の質」に対する影響についてでありますが、議員お述べのとおり、「保育の質」の確保は非常に重要であり、「量の確保」と両輪で取り組むべきものと考えております。
 保育士不足が「保育の質」の低下に直結するとは考えてはおりませんが、増加する経験の浅い保育士が専門職としての経験やスキルを身に付けるには時間が必要であり、その指導にあたるべき経験豊富な保育士が相対的に不足していることは、「保育の質」の維持・向上についての課題であると認識をしており、更なる研修の充実等に取り組む必要があると考えております。


❷保育士の確保並びに「保育の質」維持・向上のために行う取り組みについて
 「保育の質」を維持し高めていくためには、まずは保育士確保の支援メニューを拡充しなければならないだろうし、次に定着率を高めるため、保育士がおかれている多忙極まるワークライフバランスや労働環境、こどもの生命保持と情緒安定という大きな職責にそぐわない安月給なども改善していかなければならない。
 わずかに各園においても工夫や努力ができる余地は残されているかもしれないが、保育サービスの量的拡大という政策インプットを本市行政が選択し、保育現場に多少なりともマイナスの影響を及ぼしているのであれば、行政がその穴埋めの責任を負うべきなのは言うまでもない。現状の取り組みは対症療法的で、且つ不十分である。
 ついては、保育士の確保並びに「保育の質」維持・向上のために行政が果たすべき責務を自覚したうえで、どのように取り組もうとするのかを伺う。


 「保育の質」を維持・向上するための施策についての1点目の保育士の確保並びに「保育の質」維持・向上のための取り組みについてでありますが、児童を心身ともに健やかに育成する責任を保護者とともに本市が担うことは言うまでもありません。
 大津では支援を必要とする子どもを含め、全ての子どもの発達を保障する保育に公民一体となって長年取り組んできております。障害児保育をはじめ、一人ひとりの人権を尊重する保育の取り組みは全国的に誇るものであります。
 しかしながら、これらの「保育の質」の向上に対する取り組みには、保育士確保と定着と並んで、増加する経験の浅い保育士が専門職としての経験やスキルを身に付けるための時間が必要であることから、短期的には現在の処遇改善等の取り組みで保育士確保と定着に取り組みつつ、長期的には、引き続き、公民一体の研修等を通じて「保育の質」の維持・向上に努めてまいりたいと考えております。


❸人事・給与構造改革及び公民の保育士処遇の格差是正に関する考え方について
 なお、今年度、人事・給与構造改革の一環で保育教諭の給与表の見直しが検討されている。公務員の給与はもとより民間準拠を基本とするが、現在の民間保育士の給与は構造的に一定勤続年数以降は主任保育士などにならない限り、増えにくい仕組みとなっているのは周知のところである。人事・給与構造改革による給与表改定に当たっては、民間水準を上げることを前提に検討を進めるべきと考える。
 国では「副主任保育士」や「専門リーダー」職を新設し月額4万円の処遇改善を図る取り組みを始められようとしている。これらに加え、保育士に対する期末手当の加算措置などを講じて、公民格差を是正していくべきである。見解を伺う。


 保育士給与における公民格差の是正についてでありますが、今年度から、民間保育所等に関しましては、国において大幅な賃金改善が実施されることとなり、議員お述べの「副主任保育士」や「専門リーダー職」を新設することに伴う月額4万円の賃金改善に加え、職務分野リーダーの創設に伴う月額5千円、ほぼ全ての職員を対象とした2パーセントの賃金改善もあわせて実施されます。本市で実施した公民保育士の給与調査では、中堅クラスの公民格差が顕著な状況であり、その格差の改善につながるものと考えております。また、本市では、市単独事業として、民間保育園に対し月額5千円から9千円の給与改善を行うことができる保育士等人材確保臨時特例事業費補助金を実施しているところであり、今後も公民格差の是正に努めてまいります。


❹社会福祉法改正による第三者評価努力義務化について
 また「保育の質」向上を図り、安心して子どもを預けることができる環境を整備するために、すべての保育事業者が第三者評価の受審を平成31年度までに行われることを目指す指針が一昨年に示され、社会福祉法に基づき、5年に1度の第三者評価が努力義務となった。
 本市の保育施設においても、もちろん全ての事業者が受審されるものと思うが、本市行政としても積極的に受審の意義を周知し受審促進を図るとともに、必要に応じて「保育の質」向上につながる園独自の取り組みに対して、支援を行っていくべきと考えるが、見解を伺う。


 3点目の積極的に第三者評価受審の意義を周知し受審促進を図るとともに、「保育の質」の向上につながる園独自の取り組みに対して、支援を行っていくべきについてでありますが、本市ではこれまでも受審意義の周知などを行っており、民間園の受審も徐々にではありますが進んできている状況です。
 第三者評価受審が努力義務であることから、本市が強制することは困難でありますが、公立保育園の受審結果の公表などを通じて、引き続き受審の意義の周知等を行い受審の促進に努めてまいりたいと考えております。



大津市議会議員 藤井哲也拝 





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