大津市のガス事業民営化に関する問題点。

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 大津市の公営企業局がこれまで担ってきたガス事業を、行政(25%)と民間(75%)がそれぞれ出資して、公民連携出資会社を設立し、その会社により、ガスの仕入れ・供給・修繕などを行うように進める検討が昨年度より具体的に進められています。

 私としては、民間企業であっても、現行の市民サービスが提供できるのであれば地元協力会社(工事会社など)との関係が維持されることを前提に、必ずしもガス事業を公営継続する必要性もないと考えており、基本的な方向では公民連携出資会社の設立やガス事業の民営化へ理解をするものです。

 しかし、行政が出してきている経営シミュレーションでは、現行の市民サービスが維持できるのかが判断ができません。
 具体的には、大津市の想定する経営シミュレーションでは、大幅に「原料調達コスト」、つまりガスの仕入れ価格を下げられるという前提で話が進められていますが、この前提が覆れば、早晩 民間に任せられたガス事業の財政はひっ迫し、それはガス利用者である私たちへ料金アップという形で影響を与えるのではないかと考えられるからです。



 上図は、大津市企業局が市議会へ説明した際の資料です。
 民営化した際のコストシミュレーションで大きく削減効果があるのは、「売上原価」であり、20年間で約35億円とされています。売上原価はもちろん、「原料調達コスト」のことです。

 大津市は民営化することで、ガス原料調達コストが下げられる理由を次のように述べています。

     官民連携出資会社における売上原価については、仙台市の事例(※仙台市もガス事業の民営化を検討中)と同様の手法で、本市の原料調達コストと本市の同規模の民間ガス事業者の原料調達コストを比較したところ、原料調達コストが本市に比べて安価であることが分かった。このことから、官民連携出資会社では、民間のノウハウの活用により、公営継続より安い価格で仕入れることができると考えたものである。
     現状の卸価格は我々の度重なる交渉の結果、これまでからも安価に卸供給頂けると思料している。しかし、本年4月からガス小売り全面自由化が施行され、本市においても今まで経験のなかった新規参入事業者との競争が始まったことで、民間においては、我々公共にはない高度な営業ノウハウや交渉力、これに加え様々なコネクションなどを保有していることを実感しており、民間企業であれば、今以上に原料調達コストの削減が図れるものと考えている

 大津市企業局が言うには、民間に任せれば、「高度な営業ノウハウ」、「交渉力」、「様々なコネクション」があって、原料調達コストが下げられるということだ。
 また、大津市のガス事業と同規模の民間企業と比較した場合、大津市のガス仕入れ価格は2%程度高いことが分かったそうで、民間が保有する高度な営業ノウハウ等を使えば、ガス仕入れ価格を2%引き下げられるのではないかという話である。

 これは非常に判断に悩む。
 民間と公共が持つ、「営業ノウハウ」や「交渉力」、「様々なコネクション」の差は、定量的に、また定性的にも評価がしずらいからである。果たして本当にそうなのか?仮に現在「営業ノウハウ」が足りないのであれば、民間企業から優れたアドバイザーなどを引っ張ってくることで解消できる問題ではないだろうか?コネクションも同様である。

 そもそも民間企業に移行すれば、仕入れ料金を下げられるという因果関係にあるのだろうか。
 大津市の考えは以下のイメージだと考えている。



 しかし、本当に因果関係はあるのだろうか?
 「風が吹けば桶屋がもうかる」ではないが、そう見えているだけであって、実は違う要因Zがあるのではないだろうか?(疑似相関の疑い)



 
 つまり、民間企業だから仕入れ価格が低いのではなく、

① 原料調達市場に競争環境がある:入札などで競争環境を創出できる可能性がある。
② ボリュームディスカウントできる:大津市域だけではなく、他地域と一緒に大量購入することができれば、ボリュームディスカウント(いっぱい買うから安くして。)ができる可能性がある。
③ 大阪ガス以外のガス会社の卸売価格がもともと安い。

 ということが要因Zとして考えられる。
 このうち、民営化と関係があるのは、①と場合によっては②である。③はおそらく民営化とは関係ないだろう。もちろん要因としては④や⑤、⑥・・・などがあるかもしれない。しかし①は公営継続で本当に実施することはできないのだろうか?②も創意工夫してクリアできるのではないだろうか?

 安く仕入れることを可能たらしめる、民間の「高度な営業ノウハウ」や「交渉力」とは何か?「様々なコネクション」とは何か?

 それらの定義や評価にあって、大津市の現在の説明では不確かな事が多く、「とりあえず民営化すれば、調達コストは安くなる」という仮説を市議会へ提示しているのだが、その論拠はハッキリ言って十分ではない。確かに民間平均と比べて2%安い事実はあるのかもしれないが、それは疑似相関の可能性が強いと感じているからこそ議会は納得ができないのである。

 東芝の粉飾を見抜けなかった新日本監査法人が、この手法(官民連携出資会社)がベストだという検討を1億5千万円の税金をかけて行い、それを受けて、大津市企業局がこの方向性で進めようとしているが、議会や市民に対する説明が十分ではないように思われるし、それはひいては結果ありきの検討であるように感じる。
 官民連携出資会社とは名ばかりで、75%を出資する民間企業の連結子会社になり、25%しか株式を持たない大津市は重要事項の議決にも反対をすることができないことから、実質的にはこれはガス事業の一部民営化である。小さい政府志向の越市長による「改革パフォーマンス」の一環だとしたら悲しい。市民生活への影響を省察的な観点から本来は十分に内部検証すべきであるが、対抗意見を交わして議論してきた形跡もあまり見られない。最初から結論ありきだからこそ、論拠の部分で説明に窮するのではないか。

 最初に述べたように私も、ガス事業の民営化には必ずしも反対ではないが、現行の市民サービスが提供でき地元協力会社(工事会社など)との関係が維持されることが前提だと考えている。

 民営化するのは簡単だが、果たして行政が出してきている経営シミュレーションは正しいのだろうか。甚だ疑問を感じる。今回の市議会通常会議には、この民営化を具体的に進める第1歩の議案が含まれている。正直、十分に納得できない現時点にあっては、仮に民営化を反対する立場ではないにしても、問題があると感じる。


 ちなみに余談となりますが、国際的なガス料金の比較をすると、日本のガス料金はけっこう高い状況です。(電力料金は国際水準並みにも関わらず)

(出所:エネルギー白書2016)

 これは完全に政治マターなのかもしれませんが、日本ではエネルギー供給に占める電力会社の影響力が大きく、もちろん電力発電の原料にもガスが含まれています。電力会社がガスの輸入価格に与える影響力を考慮すると、ガス料金が下がりすぎることで電力使用量が減る可能性もあり、そうしたことを憂慮することも考えられるように思います。
 

大津市議 藤井テツ





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